ナガバノスミレサイシン(長葉の菫細辛、学名:Viola bissetii Maxim.)は、スミレ科スミレ属に分類される多年草。
スミレサイシン節 Sect. Vaginatae に属する。
特長
無茎の種。高さは5-12cmになる。地下茎は太く、水平に伸長し、節があって節間は短い。葉は少数が束生し、開花後に展開する。葉身はやや質が厚く柔らか、三角状長卵形から三角状披針形で、長さ5-10cm、先は漸尖形、基部は深い心形になり、縁には低い鈍鋸歯がある。葉柄は長さ6-8cmになる。葉の表面は鮮緑色で、表面はほとんど無毛、裏面基部にまばらに毛が生える。基部にある托葉はほとんど離生し、披針形で先端がとがり、株もとに鱗片状につき、膜質で褐色になり、長さ8-12mmになる。果時の葉は長さ15cm、葉柄は長さ18(-25)cmに達する。
花期は3月下旬-5月上旬。完全に展開する前の葉間から花柄を伸ばし花をつける。花柄は長さ5-12cmになる。花は径約2-2.5cmで、淡紫色。芳香はない。花弁は長さ15-18mm、先端は円く、側弁の基部は無毛、花弁5個に紫色の条があるが、とくに唇弁の条が著しい。唇弁の距は短く、長さ4-5mmで、左右から押しつぶされた嚢状になる。萼片は広披針形で、その後部の付属体は浅く2裂する。雄蕊は5個あり、花柱はカマキリの頭形になり、上部の両翼が左右に短く張り出す。果実は卵形状の蒴果で横断面はほぼ三角形、先端はとがり、紫色の斑な模様がある。染色体数は2n=24。
分布と生育環境
日本の固有種。本州(福島県以西)、四国、九州の太平洋側の雪の少ない地方に分布し、山地や丘陵の夏緑林の林床や林縁に生育する。いわゆるソハヤキ要素の分布をする植物である。同じスミレサイシン節 Sect. Vaginatae に属するスミレサイシンは主に日本海側に分布して、すみ分けている。
適湿な環境を好み落葉樹下に多く、杉の植林地の下でもよく生育する。
名前の由来
和名ナガバノスミレサイシンは、「長葉の菫細辛」の意。
種小名(種形容語)bissetii は、イギリス人の採集家、James Bisset (1841-1911) への献名。
分類
スミレサイシン節 Sect. Vaginatae には、本種の他、ヒメスミレサイシン V. yazawana、シコクスミレ V. shikokiana、アケボノスミレ V. rossii、スミレサイシン V. vaginata が属する。同節のうち、ヒメスミレサイシシンとシコクスミレは花が白色、アケボノスミレは花が赤紫色で、葉は花後に展開する。本種とスミレサイシシンは花の色は淡紫色で、葉は花期には完全に展開し、本種の葉は披針形で、スミレサイシンの葉は心形になる。
ギャラリー
下位分類
- シロバナナガバノスミレサイシン Viola bissetii Maxim. f. albiflora Nakai ex F.Maek. - 白花品種。
- フイリナガバノスミレサイシン Viola bissetii Maxim. var. kiusiana Terao - 四国と九州の高所に分布し、葉の表面の葉脈に沿って白い斑が入り、裏面が紫色をおびるものを変種(または品種 f. variegate Nakai )として分類している。
交雑種
- ナガバノアケボノスミレ Viola bissetii Maxim. × V. rossii Hemsl. - ナガバノスミレサイシン×アケボノスミレ
脚注
参考文献
- いがりまさし『増補改訂日本のスミレ』山と溪谷社〈山溪ハンディー図鑑〉、2015年1月15日。ISBN 9784635070065。
- 寺尾博「スミレサイシンとナガバノスミレサイシンの葉形の地理的変異」『植物分類,地理』第28巻、日本植物分類学会、1977年4月、NAID 110003763084。
- 佐竹義輔、大井次三郎、北村四郎、亘理俊次、冨成忠夫 編『日本の野生植物 草本II離弁花類』平凡社、1982年3月17日。ISBN 458253502X。
- 林弥栄『日本の野草』山と溪谷社〈山溪カラー名鑑〉、2009年10月。ISBN 9784635090421。
- 林弥栄『野草 見分けのポイント図鑑』(新装)講談社、2014年9月10日。ISBN 978-4062191272。
- 牧野富太郎、本田正次『原色牧野植物大図鑑』北隆館、1982年7月。ASIN B000J6X3ZE。 NCID BN00811290。全国書誌番号:85032603。https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001728467。
- 山田隆彦著『スミレハンドブック』、2010年、文一総合出版
- 門田裕一監修、永田芳男写真、畔上能力編『山溪ハンディ図鑑2 山に咲く花(増補改訂新版)』、2013年、山と溪谷社
- 大橋広好・門田裕一・木原浩他編『改訂新版 日本の野生植物 3』、2016年、平凡社
- 牧野富太郎原著、邑田仁・米倉浩司編集『新分類 牧野日本植物図鑑』、2017年、北隆館
関連項目
- 日本産スミレ属の一覧
外部リンク
- ナガバノスミレサイシンの標本 国立科学博物館標本・資料統合データベース




